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フランチャイズ訴訟雑感

2022-09-23

 これまでにフランチャイズ本部や加盟店から多くの相談を受けてきましたが、フランチャイズ事業もコンビニだけでなく実に様々な事業があります。中にはフランチャイズ事業として成り立つのか疑問に思うものもあります。

 相談を受ける中でいくつかの訴訟を手掛けてきましたが、本部や加盟店のいずれの立場であっても訴訟で争うことは双方にとって「労多くして益少なし」という印象が拭えません。フランチャイズの場合、契約前に本部が提示した収益予測と加盟店が実際に開業した時の売上が大きく異なることから当初の説明と違うということで訴訟になるケースがほとんどです。

 訴訟になると加盟店に本部の説明義務違反を立証する必要があるのですが、立証に成功して本部の説明義務違反が認められたとしても、損害を算定する段階で裁判所は加盟店も独立の事業者であるとかフランチャイズ事業を精査せずに安易に意思決定をしたなどの理由により過失相殺がなされてしまうので、認定される損害額がかなり減額されてしまいます。このように本部にとっては損害賠償責任が認められると事業の見直しを迫られるでしょうし、加盟店にとっては実際に被った損害額よりも低い額しか認められないことが多いといえます。

 このような訴訟実態を考えると、フランチャイズ事業に加盟することを検討されている方は、検討している事業につき複数社からの説明を受けるとともに、自らも事業内容を納得するまで徹底的に検討し疑問があれば解消しておく必要があります。やはり安易に意思決定をしないことが重要といえます。一方、本部についても本部だけの利益追求の事業を構築するのではなく、本部・加盟店の双方が共存できる体制を構築すべきといえます。

  以下の記事も参考にして見て下さい。

 フランチャイズ契約の法律トラブル

 

 

民事信託の可能性について

2022-08-19

1 信託とは

       信託とは、日常生活ではあまりなじみのない言葉ですが、文字どおり財産を信じて託すことを言います。法律的には、ある人が信用できる親族や第三者に対して、不動産や金銭などの財産を託し、その親族や第三者がその財産を管理することを言います。財産を託す人を委託者といい、財産を託されて管理する人を受託者といいます。さらに、信託法では信託関係の中で利益を受ける受益者も登場してきます。

  このように信託では、主に委託者、受託者、受益者の三者が登場することになります。

  委託者が受益者を兼ねる信託を自益信託といい、委託者と受益者が異なる場合を他益信託といいます。信託行為は、委託者と受託者との契約により行われる場合、委託者が遺言により行う場合、委託者が信託宣言という方法で行う場合があります。

  では、信託を利用することによって、利用者にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか。信託は様々な場面で利用でき、とても便利な制度なのですが、いくつかの事例で説明いたします。

2 高齢者の財産保護のための利用事例

        高齢になってくると判断能力が衰え、自らの財産を管理できなくなる場合がしばしばあります。この場合に成年後見制度を利用し、成年後見人を選任することも考えられますが、同制度を利用すると、高齢者にとって不利益になることはできなくなりますので、相続対策などの財産運用や自宅を売却して老人ホームに入るなどの行為ができなくなる可能性があります。

  そこで、民事信託を利用して、自分の子どもや他の信頼できる親族に財産管理を委託して、高齢者自らが受益者になっておけば、判断能力が衰えたとしても、受託者が財産を管理し必要な場合は処分することもでき、また委託者である高齢者は必要な生活費を受給できるので財産は守られることになります。

  なお、民事信託を利用すると、受託者に所有権は移転しますが、受託者の個別財産とは別に管理することが義務付けられており、信託から生じる利益は受益者が得られるので、実際には不都合は生じることはありません。

3 夫婦間に子どもがいない場合の利用事例

  夫の財産として居住不動産がある場合、夫が死亡後は妻及び妻の兄弟姉妹が相続することになるので、夫が妻に相続させるという遺言書を作成すること方法も考えられますが、その後、妻が亡くなれば妻の兄弟姉妹が相続することになります。夫がこの不動産について妻死亡後は夫の親族に残したいと考えている場合は信託を利用することが一つの解決策となります。

  この場合、夫が委託者として、受託者を最終的に譲渡したい夫の親族にしておき、受益者を夫、夫死亡後は妻としておき、帰属権利者を夫の親族とする信託契約をすることになります。

  このような信託を行うことで、夫死亡後は妻が従前どおり不動産に居住し続けることができ、妻死亡後は夫の親族が不動産を取得することができます。

  上記利用事例はわかりやすくするために簡単な事例にしておりますが、民事信託はさまざまな場面において利用することができる制度になっております。

  民事信託については、委託者及び受託者との間で信託契約書をきちんと作成しておく必要がありますので、弁護士のなどの専門家に相談することをお勧めいたします。

  法律のことでお悩みや疑問がある場合は、初回相談は無料とさせていただいておりますので、アーツ綜合法律事務所までご相談下さい。

 

離婚に伴う財産分与により生じる課税関係について

2022-06-27

1 離婚の際に財産分与する者に税金がかかる場合があること

  離婚する場合、婚姻期間中に夫婦が築いた財産を分与しますが、通常は、夫から妻に財産を分与することになります。分与対象となる財産には、現預金、不動産、保険、自動車などの動産などが主なものになります。

  通常、離婚する夫婦は、夫から妻もしくは妻から夫に財産の半分を渡せば、財産分与としては終了するので、税金については全く考えていないではないでしょうか。

  しかしながら、離婚する場合、分与する側に譲渡所得税がかかることがあります。分与される側の間違いではないかと思われるのですが、分与する側に税金がかかる場合があるのです。特に分与財産の中に不動産があり、購入後に資産価値が上がっている場合は注意が必要となります。なお、分与される側については贈与税がかかるのではないかと思われるのですが、財産分与は贈与ではありませんので、離婚自体が贈与税や相続税を免れるために行われる場合などの例外的事情がない限り、原則として贈与税が課されることはありません。

 分与する側に譲渡所得税がかかることにつき、判例がありますので以下紹介いたします。

2 判例について

 事案は協議離婚に伴う財産分与として夫が妻に不動産全部を譲渡したところ、後日、夫が自分に億単位の譲渡所得税が課税されることを知って、妻への財産分与の錯誤無効を主張した事案となります。本件事案では、夫は自分に対して譲渡所得税が課税されることを知りませんでした。

 事案は協議離婚に伴う財産分与として夫が妻に不動産全部を譲渡したところ、後日、夫が自分に億単位の譲渡所得税が課税されることを知って、妻への財産分与の錯誤無効を主張した事案となります。本件事案では、夫は自分に対して譲渡所得税が課税されることを知りませんでした。

 当該事案は最高裁まで争われ、最高裁平成1年9月14日判決では、「離婚に伴う財産分与として夫婦の一方が、その特有財産である不動産を他方に譲渡した場合には、分与者に譲渡所得を生じたものとして課税されることになる。したがって、前示事実関係からすると、本件財産分与契約の際、少なくとも上告人において、右の点を誤解していたものというほかないが、上告人は、その際、財産分与を受ける被上告人に課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたというのであり、記録によれば、被上告人も、自己に課税されるものと理解していたことが窺われる。そうとすれば、上告人において、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情のない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるを得ない。」と認定して、分与者である夫(上告人)の錯誤無効の主張を認めました。

3 譲渡所得税が生じることは多くない

  離婚に伴う財産分与において、分与する側に税金がかかる場合があることを説明してきましたが、分与財産である不動産が人気の居住地区にあるなど、購入時点に比べて資産価値が上がっている場所でない限り、実際には譲渡所得税が生じることはほとんどありません。つまり、通常、不動産は購入時点の価値が最も高く、財産分与時点ではかなり下がっていることが多いため、財産分与時点では譲渡損(離婚時点の価値<購入時点の価値)になっていることから譲渡所得税が生じることはほとんどありません。

  もっとも、不動産が文教地区にある場合や繁華街や駅が近いなど、購入以降も価値が上がる要素があれば、譲渡所得税が生じる可能性がありますので、専門家に相談することをお勧めいたします。

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賃貸借契約における賃貸人の連帯保証人に対する請求が制限される場合について

2022-01-20

1 賃貸借契約における連帯保証人の責任

     マンションやビルなどの一室を借りる場合、賃貸人との間で不動産賃貸借契約を締結しますが、通常、賃借人は賃貸人から連帯保証人を求められます。連帯保証人は、賃借人とともに賃貸借契約から生じる賃借人の債務を負担することになります。例えば、賃借人が家賃を滞納していれば、滞納家賃を支払わなければならないですし、賃借人が物件を破損したりした場合は補修すべき責任を負わなければなりません。このように連帯保証人は責任が重くなる場合があるため、通常は親族になってもらうことが多いと思われます。

2 連帯保証人の負担義務の範囲が問題となった事例

    賃借人が家賃を滞納してからかなりの期間が経過しているにもかかわらず、賃貸人が即座に明け渡しを求めることがなく、滞納家賃が多額になってから連帯保証人に請求してくることがあります。連帯保証人とすれば賃貸人から請求を受けて初めて滞納家賃が多額になっていることを知ることになります。このような場合、連帯保証人は賃貸人から請求された金額すべてを支払わなければならないのでしょうか。原則的には連帯保証人は全額支払う必要がありますが、一定の条件が認められれば、連帯保証人は全額を支払う必要はありません。

 この点については区営住宅の賃貸借契約において、賃貸人が滞納家賃を連帯保証人に請求した事案において、連帯保証人への請求を制限した事例(東京高裁平成25年4月24日判決)があります。

    この事案では、賃借人が賃料不払いを続けながら、賃貸建物を明け渡さない場合、賃貸人は、保証人の支払債務が保証契約上想定されるよりも著しく拡大することを防止するために、保証人との関係で解除権等を状況に応じて的確に行使すべき信義則上の義務を負うとされ、賃貸人が権利行使を著しく遅滞したときは、著しい遅滞状態となった時点以降の賃料ないし賃料相当損害金を保証人に請求することは権利濫用として許されないと判断されております。

  実際には賃貸人がどの程度の期間、権利行使を放置すれば保証人への請求が権利濫用となるのかはケースバイケースなのですが、およその目安として2,3年と解されます。もっとも通常、期間のみならず、他の事情も考慮されて判断されます。

3 改正民法の規定について

    このようなトラブルが多かったことから、2020年に改正された民法では、親族や知人などの個人が賃借人の保証人となる場合には、知らぬ間に滞納賃料が増大することを防ぐために、賃貸借契約において保証人が負担しなければならない最大限度の負担額(極度額)を定めておかなければならなくなりました(民法465条の2)。

 改正された民法により、今後は前述したようなトラブルは減少すると解されますが、2020年4月1日以前に締結された賃貸借契約については、改正民法が適用されないので先ほどのトラブルが生じる可能性があります。

 不動産のことでお悩みや疑問がある場合は、初回相談は無料とさせていただいておりますので、アーツ綜合法律事務所までご相談下さい。

賃貸人が通常の電気料金に様々な諸経費を加算して賃借人に請求することの可否

2021-06-23

1 マンションやビルでの電気料金などの光熱費の請求

       マンションやビルなどの一室を借りる場合、賃貸人との間で不動産賃貸借契約を締結しますが、一戸建てや家族用マンションであれば、通常、賃借人が電気、ガス、水道などの光熱費の料金は電力会社やガス会社と直接供給契約を結びますので、基本料金及び毎月の使用料は、自分たちが使用した分について請求されることになります。

これに対して、商業ビルでは様々な業態の個人や法人が賃借人となっていることもあり、賃貸人から毎月の賃料に電気料金や水道料金が加算された請求書にもとづいて支払っている場合がよくあります。賃借人の多くがこれらの光熱費についてほとんど疑問を持つことなく、請求されるままに支払っているのではないでしょうか。

2 賃借人が負担すべき電気料金が問題となった事例

     賃貸人が未払の電気料金を請求し、賃借人が電気料金の払い過ぎを主張して裁判になった事例(東京地裁平成27年2月27日判決)があります。

 事案は、ビルオーナーである賃貸人が、賃借人に対して電気料金を2年間滞納しているとして訴訟を提起したのですが、賃借人の方でも、賃貸人から電気料金を過大に請求されて払ってきたとして、過大に請求された金額の返還を求めて反訴を提起しました。

  この事案では、賃貸人が、実際に賃借人が使用した電気料金に加えて、ビルの管理料や人件費、金利リスクなどを考慮して毎月の電気料金を請求しており、このような請求が認められるかが争点となりました。

  結論としては、賃貸人と賃借人の間で、電気料金などの課金方法や計算方法などの取り決めがなされたこともなく、賃貸借契約書にも課金方法や計算方法の記載もなかったことから、賃貸人が通常の電気料金に管理料など様々な諸経費を加算して請求することは認められませんでした。一方で賃貸人に対し、賃借人が過大に支払った電気料金を返還するよう認めております。

3 賃貸借契約における電気料金や水道料金などの定め方

      賃貸人としては、賃借人に対し、電気料金や水道料金などの光熱費を請求するにあたり、通常の使用量に諸経費を加算するのであれば、賃貸借契約時点で賃借人に対して、課金方法や計算方法を説明した上で賃貸借契約書にも明記しておく必要があるでしょう。

 もっとも、諸経費を加算するとしても、あらゆる経費を電気料金などに上乗せすることは認められるとは解されず、関連機器の保守管理費など合理的な範囲に限定されることになります。上記裁判例でも電気料金に加算される費用としては関連機器の保守管理費のみが認められております。

  賃借人としては、賃貸人からの電気料金や水道料金の請求額がどのように計算されているのか一度確認した方がいいでしょう。

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経営者保証ガイドラインについて

2021-03-24

1 経営者保証ガイドラインとは

  経営者保証ガイドラインとは2013年12月に合理的な保証契約のあり方を示したものですが、中小企業の経営者の保証債務の整理のための準則についても策定している点に大きな特徴を持っております。法律ではないので法的拘束力はありませんが、主たる債務者、経営者そして金融機関などが遵守すべき内容とされております。

 では、経営者保証ガイドラインを利用すると債務者にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか。

従来、中小企業の経営者は会社が金融機関から運転資金等を借り入れる場合、連帯保証を求められました。そして会社が破産手続を取る場合、連帯保証をした経営者も破産手続を取らざるを得ない場合がほとんどでした。そうすると経営者は自己名義の持ち家などの財産は破産手続の中で換金されてしまい、手放す必要がありました。しかし、経営者保証ガイドラインを利用すると、会社は破産手続を利用したとしても、経営者自らは破産する必要はなくなり、債権者へは経済的合理性の認められる範囲で一部弁済を行なえば、残額は免除を受けられます。また、信用情報機関への登録もなされません。

 それに加えて破産手続を取った場合よりも多くの財産を残すことが可能となります。通常、破産手続の場合は原則99万円分の財産のみ手許に残せますが、経営者保証ガイドラインでは、それのみならず一定期間の生計費や華美でない自宅を残すことができます。

2 経営者保証ガイドラインの利用要件

  経営保証ガイドラインは対象となる債権者全員の同意が必要となるとともに、以下の利用要件を充たす必要があります。

 ➀ 保証契約の主たる債務者が中小企業であること

 ② 保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること

 ③ 主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、債権者に対し、財産状況を適時適切に開示していること

 ④ 主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと

 ⑤ 主たる債務者が破産手続等の申立てをこのガイドラインの利用と同時に現に行い、又は、これらの手続が係 属し、もしくは既に終結していること。

 ⑥ 主たる債務や保証債務の破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、債権者にとって経済的合理性があること

 ⑦ 保証人に免責不許可事由がないこと

 なお、経営者保証ガイドラインは対象債権者については金融機関を想定していますが、これに限られるものではなく、リース会社などの保証債務ではない債権者も含めてもよいとされております。しかし、経営者が連帯保証人となっている金融機関以外の債権者を含めると、経営者保証ガイドラインでは債権者全員の同意が必要となるためガイドライン成立のハードルが高くなってしまいます。

 上記利用要件を充足しているのであれば、経営者保証ガイドラインを利用した方がよいでしょう。

3 経営者保証ガイドラインの手続の流れ

  経営者保証ガイドラインを利用した場合の手続の流れですが、対象債権者へ返済の一時停止の要請を行い、弁済計画案を策定し、債権者に対する説明・協議を行い、最終的には特定調停(手続機関としては中小企業再生支援協議会もあります。)を申立て、対象債権者の合意を得て調停を成立させます。

このように会社の代表者など経営者個人については、金融機関の保証債務があったとしても、今後は経営者保証ガイドラインを利用することによって、破産手続を取る必要がなくなります。

  経営者の方で経営者保証ガイドラインの利用を考えられている場合、初回相談は無料とさせていただいておりますので、アーツ綜合法律事務所までご相談下さい。

 

節税のための養子縁組について

2020-11-25

1 養子縁組の要件について

  養子とは親子関係を出生という血のつながりではなく、当事者の意思により生じさせる制度を言います。養子が成立するためには、形式的要件としては届出が必要ですが、実質的要件として縁組をする意思が必要となります(民法802条)。そして、養子縁組により親子関係が成立すると、養親が亡くなった場合、当然のことですが養子も相続人となります。

2 養子がいる場合の相続税の基礎控除額について

  相続が発生した場合、遺産が多いと相続税を納めなければなりませんが、相続税の計算に当たり基礎控除が認められており、現行法では、3000万円に加えて600万円に相続人の数を乗じた合計金額の控除が認められております(相続税法15条1項)。例えば、相続人が3名の場合、基礎控除額は4800万円(=3000万円+600万円×3人)となります。

 そうすると、遺産の多い人は、生前に自分の孫などを養子とすれば基礎控除額が増えることになりますので、節税のため養子縁組をして養子を増やそうとする人も出てくるかもしれません。しかしながら、この点については、相続税法上、被相続人に実子がいる場合は、相続税の計算上、相続人として数えられる養子は1人であり、被相続人に実子がいない場合には相続人として数えられる養子は2人となっております(相続税法15条2項)。つまり、相続税法上は、無制限に養子縁組をして養子を増やしても、基礎控除額として算入される養子を制限しております。

3 節税のための養子縁組は認められるのかどうかについて

  では、そもそも節税のために養子縁組をした場合、果たして当事者間に縁組意思が認められるのでしょうか。

  この点について、判例(最高裁平成29年1月31日・民集第71巻1号48頁)は「相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」と認定しております。つまり、節税目的があったとしても、養親子関係を生じさせる意思が併存している場合は養子縁組を行う意思はあるとしました。当然のことながら、単に節税のためだけに養子縁組を仮装した場合は養子縁組の意思は否定されることになります。

 もっとも、注意すべきことは、節税目的のための養子縁組につき縁組意思が否定されなかったとしても、実際に基礎控除額が増えるかどうかは相続税法の規定によることになります。つまり、相続税を不当に減少させる場合には、養子を基礎控除額の算定の相続人入れることができなくなりますので(相続税法63条)、専ら節税目的のために養子縁組を行うことは止めた方が良いと言えます。

 

  相続のことでお悩みや疑問がある場合は、初回相談は無料とさせていただいておりますので、アーツ綜合法律事務所までご相談下さい。

 

 

相続放棄と空家の管理責任について

2020-11-09

1相続放棄者の義務

 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内であれば相続放棄をすることができます(民法915条1項・相続放棄をしたい方へ)。相続を放棄すれば初めから相続人とならなったものとみなされます(民法939条)。相続放棄が実際になされるのは、遺産に借金が多い場合、不動産などの資産があっても価値がない場合、相続争いに巻き込まれたくない場合などです。

 ただ、相続放棄をしても遺産に不動産、預金通帳や動産がある場合、「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけると同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」(民法940条1項)と規定されており、放棄した相続人には管理責任が課されております。通常であれば、第1順位の相続人である子が放棄した場合、その子が第2順位の両親や第3順位の兄弟姉妹の相続人に遺産を引き渡すまで管理責任が継続することになります。

 では、第1順位である子の他に第2順位や第3順位の相続人がいない場合に、第1順位の子が相続放棄した場合、その子は遺産について管理責任を負担し続ける必要があるのでしょうか。

 このような場合、最後の相続放棄者である子は遺産の管理責任を負い続ける必要があります。遺産の管理責任を免れるためには、相続放棄者が利害関係人として家庭裁判所へ相続財産管理人の選任の申立てる必要があります(民法952条)。もっとも、相続財産管理人の選任申立にあたっては、少なくない額の予納金を納めなければならず、この点が、相続財産管理人の選任を申し立てることを躊躇する原因となっています。

2相続放棄した遺産が空家である場合の問題

(1) 近隣住民等に対して生じる責任

  遺産のうちに空家がある場合、前述しましたように相続放棄した者が最終放棄者である場合、遺産の管理責 任が継続することになります。このような状況において空家で火事が生じ近隣の建物に被害を被らせた場合や空家の瓦が落ちて近隣の建物に被害を与えた場合などは、相続放棄者が管理責任に基づく損害賠償責任を問われる可能性があります。相続を放棄したからという理由で、責任を免れることはできないといわなければなりません。

 相続放棄者が管理責任を免れるには、前述しましたように相続財産管理人を選任して、空家を除却したり、売却するなどして処分してもらう必要があります。

(2) 行政に対して生じる責任

  平成27年に空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家法」といいます。)が制定され、行政も増え続ける空家対策に乗り出しております。

  空家法で規定された施策のポイントは、行政において特定空家を認定し、特定空家の所有者や管理者に対し、除却、修繕などの周辺環境の保全を図るために必要な措置を助言、指導、勧告、命令することができます。

  特定空家とは放置すれば倒壊の危険がある状態や衛生上有害となるおそれのある状態など、周辺の生活環境の保全を図るため放置することが不適切である状態の空家のことをいいます(空家法2条2項)。

  所有者が行政の命令措置に従わなかった場合、行政が行政代執行法により除却などを行い、それに要した費用について所有者に対して納付命令を行います。

  では、最後の相続放棄者は、倒壊等の危険がある空家に対して、行政から助言、指導、勧告、命令を受ける対象となるのでしょうか。つまり、放棄者自らの費用で除却する必要があるのでしょうか。最後の放棄者が放棄後も管理責任を負うとされていることから問題となります。

  この点、管理責任を負う最後の放棄者についても空家法3条の適切な管理を行う努力義務を負いますが、前述した空家法14条の命令を受ける対象とはなりません。つまり、最後の相続放棄者は放棄した空家につき倒壊の危険があっても、行政の命令を受ける立場にはなく(但し、行政から助言、指導、勧告を受ける名宛人とはなります。)、最後の放棄者は自らの費用で除却する必要はなく、仮に行政が代執行に基づき建物を除却した場合でも、除却にかかった費用を納付する義務もありません。

 

 相続のことでお悩みや疑問がある場合は、初回相談は無料とさせていただいておりますので、アーツ綜合法律事務所までご相談下さい。

 

相続分の譲渡が贈与に該当する場合について

2020-10-29

1 相続分の譲渡とは

 父母の一方が亡くなり相続が開始した場合、残された配偶者や子どもたちなどの相続人の間で遺産分割協議が行われます。しかし、相続人の中には遺産は要らないので、遺産分割協議には参加したくないと考える者もいます。このような相続人が取りうる方法としては、相続放棄(民法939条・相続放棄をしたい方へ)と相続分の譲渡があります。

 相続放棄とは、相続人が家庭裁判所に申し立てることによって相続を放棄する制度であり、放棄を申し立てて裁判所に受理されると、その相続人は初めから相続人とならなかったものとみなされます。一方、相続分の譲渡とは相続人の一人が、他の相続人や第三者に自らの相続分を譲渡することを言います。相続分の譲渡を定めた規定は民法上ありませんが、一般的に認められた手続です。また相続分の譲渡を前提とした規定が民法にはあります。相続分の譲渡は相続放棄と異なり、裁判所へ申し立てる必要はなく、譲渡当事者間で行うことができるので、よく利用されております。

 相続分の譲渡が行われた場合、譲渡を認めたくない他の相続人は何らかの主張ができないのでしょうか。

 まず、相続分の譲渡が第三者になされた場合には、譲渡人ではない他の相続人は譲渡された相続分の価額を支払った上で、自らがその相続分を譲り受けることができます(民法905条)。しかし、相続人間で相続分の譲渡が行われた場合、他の相続人は譲渡行為を阻止することはできません。

 このように相続分譲渡がなされると、相続分を譲渡した相続人は、相続人ではなくなるので遺産分割協議に参加する必要がなくなり、相続分を譲り受けた相続人は、自らが取得する相続分が増えることになります。また、相続分を譲り受けたのが第三者であれば、第三者が他の相続人との遺産分割協議に加わることになります。

 2 相続分譲渡が贈与に該当する場合について

 相続分譲渡を受けた相続人は、被相続人が残した遺産からの取得分が増えるわけですが、他の相続人は相続分譲渡につき何らかの主張ができることがあるのでしょうか。

 この点についての判例(最高裁平成30年10月19日判決・民集72巻5号900頁)があります。事案を簡略化しますと、まず父親の遺産相続の際に、二男が母親から相続分の譲渡を受けて、長女を含む他の相続人とともに遺産分割協議を成立させました。次に母親が亡くなり相続が開始した際に、父親死亡時に母親から相続分譲渡を受けた二男に対して、長女が相続分譲渡を受けた点について遺留分を侵害しているとして主張したのです。争点は、遺留分算定(遺留分侵害額の計算)にあたり、相続分譲渡が贈与として算定の基礎財産にあたるのかが問題となりました。

 上記判例は、「共同相続人間においてなされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産に価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する贈与に当たる。」と認定し、相続人間の無償による譲渡が贈与にあたることを認めております。つまり、相続分譲渡を行った譲渡人が死亡し新たな相続が開始した場合、譲渡当事者ではない他の相続人は相続分を譲り受けた相続人に対して、特別受益や遺留分算定のための贈与に当たる旨主張することができることになります。

 

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不動産賃料を保証会社が代位弁済した場合の賃貸借契約の解除の可否

2020-10-14

1家賃保証会社の役割

 マンションやビルなどの一室を借りる場合、賃貸人との間で不動産賃貸借契約を締結しますが、通常、仲介業者を通じて契約します。そして契約を締結するにあたって、保証人を求められることが原則となっており、賃借人が個人であれば自分の親族(通常は両親のいずれかが多いです)を保証人とすると思われます。もっとも、最近は、賃貸人が賃料の滞納を防止するために、保証会社を保証人とすることもよくあります。

 保証会社の役割は、賃借人が賃料を滞納した場合、賃貸人に対して滞納賃料を代わって支払うところにあります。これによって、賃貸人としては家賃が回収不能となる危険がなくなります。仮に保証会社と契約していなければ、賃貸人としては賃料の回収をあきらめて、賃借人に退去してもらうことでよしとしなければならなくなります。また、賃借人が勝手に出てしまい残置物が残っている場合であれば、賃貸人が訴訟を提起し、強制執行を行う必要があり、余計な費用がかかることになります。

 そして滞納賃料を代位弁済した保証会社は賃借人に請求していくことになります。

2改正民法における保証契約のあり方

 改正民法では、賃貸人が個人保証人と保証契約を結ぶ場合、極度額を定めなければならないとしております(465条の2)。これは、個人保証人が知らないうちに滞納賃料が多額になっていることがあるため、あらかじめ極度額を決めておくことで個人保証人の保護を図ることにしたのです。しかしながら、保証会社が保証人となる場合は、極度額を定める必要はありません。

 もっとも、保証会社は、賃貸人と保証契約を結ぶ際には、保証する金額の範囲を定めることが通常です。

3保証会社の代位弁済後に、賃借人に対する賃貸借契約解除及び建物明渡の可否

 保証会社が滞納賃料を賃貸人に支払った後、賃借人が保証会社に支払えば問題ありませんが、賃借人がそれ以降も賃貸人に支払うことなく、保証会社が賃貸人に支払い続けた場合、賃貸人は賃借人との賃貸借契約を解除し建物の明け渡しを求めることができるのでしょうか。保証会社が賃貸人に賃料を支払っている以上、賃借人に滞納がないのではないかが問題となります。

 この点について争われた裁判例(大阪高裁平成25年11月22日判決)があります。

 同裁判例では、「賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって、賃借人による賃料の支払いではないから、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない。なぜなら、保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって、これにより、賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではなく、ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである。」と認定し、賃貸人による賃貸借契約の解除及び建物の明け渡しを認めました。賃借人は最高裁へ上告しましたが、棄却・不受理となり、確定しております。

 このように保証会社が賃貸人へ代位弁済したとしても、賃借人の賃料不払いの事実は無くなることはありませんので、賃貸人としては、3ヶ月以上、保証会社から支払ってもらっているのであれば、賃借人との賃貸借契約を解除することが可能となります。

 不動産のことでお悩みや疑問がある場合は、初回相談は無料とさせていただいておりますので、アーツ綜合法律事務所までご相談下さい。

 

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